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【第2部】 第35話 別れの日が来る、その日まで①

last update Last Updated: 2025-10-12 19:00:29

 最初は少し抵抗があったものの……

 ボートから見える景色に、心を奪われてしまった。

 水面は穏やかで、ボートが進むたびにやわらかく波打ち、日光を反射してきらきらと輝く。

 湖の周りには色とりどりの花々が咲き誇り、そよ風にゆらゆらと可愛く揺れる。

 時折吹き抜ける風が木々の葉を揺らし、軽やかで心地よい音を奏でていた。

 そして、どこからともなく聞こえてくる鳥のさえずり――

 スワンボート、いいかも。

 深呼吸すると、瑞々しい空気が体を満たしていく。

「気持ちいー」

 うんと伸びをすると、ヘンリーは満面の笑みを浮かべた。

「うん! すごく楽しい。きっと流華と一緒だからだね」

 その無邪気な笑顔を見つめながら、私は考え込む。

 なんだかな……。

 ヘンリーは、いつも純粋に私のことを想い続けてくれる。

 それは正直、嬉しい。

 だけど。

 ヘンリーは平気なのかな?

 私には龍という恋人がいて……振り向いてもらえないこと、わかってるよね?

 それに、私たちはいずれお別れしなくちゃいけない。

 それは決まっていること。

 どうして、そんなにまっすぐ愛し続けられるの?

「……辛くないの?」

 ぽつりと漏らした言葉に、ヘンリーは不思議そうな顔をした。

「ん? 何が?」

「え? そりゃ、私と一緒にいること」

 ヘンリーは、言葉の意味が理解できないようだった。

 首を傾げたあと、ニコリと笑った。

「辛いわけないでしょ? 流華と一緒にいられるだけで、僕は幸せだよ」

 その笑顔は、すごく幸せそうで……。

 そんなヘンリーのことを見ていると、胸が温かいもので満たされていく。

 この純粋さに……幾度となく、救われてきた。

「ヘンリーって、すごく素敵な人だよね」

「えっ、褒められてる? 嬉しいな、流華、大好き!」

 テンションが上がったヘンリーは、その勢いのまま

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